家族3人の技術で完成された奈良の伝統工芸赤膚焼カップ

私たちの毎日の生活に器はマスト。

器の種類には磁器や陶器などさまざまな種類があるが、それらは現在100円均一でも手に入るような、私たちの暮らしの中でとても身近なものだと思う。

紹介する赤膚焼には3つの特徴がある。

・赤みを帯びている

・乳白色の釉薬がかかっている

・奈良絵が施されている

ただ赤膚焼には諸説あり、江戸時代末期の陶芸家である奥田木白によって奈良絵が施された赤膚焼の人気が高く、今日に至るまでずっと主要な作品となっているのだとか。

しかしそれ以前は割と自由な作りだったようで、必ずとも⒊つの特徴が揃ったものが赤膚焼と定義されるようではないようだ。

伝統的なものやシンプルなもの、釉薬の調合や塗り具合などで赤膚焼のイメージとは違う仕上がりになっているものなどさまざま。

赤膚焼はお茶道具とも深い関わりがあって、そんな歴史的背景もあるため「楽焼」も焼くことも。

それらは普段使う食器としてはもちろん、インテリアとしても◎

作家らしさが光る赤膚焼を手で触れてみてほしい。

 

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いろんな経験をしてきたからこそ気付ける、生活に溶け込みやすいデザイン

赤膚焼の製法はまず土の選択から始まる。

赤膚焼の原料となる土は奈良県西部の赤膚山から掘り出された赤みを帯びた粘土を使ったもの。

赤膚山に工房があった当時は、掘り出しに行ってトラックで運んでいたそう。

 

成型していく前に、土を練る。

これはとても大切な工程で、「荒練り」と「菊練り」という2種類の練り方がある。   

荒練りで土の柔らかさを均一に整えて、菊練りで土の中の空気を押し出す。

見るからに難しそうな菊練りを習得するのは、やはりかなり大変なことのようだ。

土の準備ができたら、「ろくろ」を回して成型していく。

回転する力を利用して作る方法を「水挽き」と呼ぶ。

家のコーヒーカップは普段よく見る丸い形のものだったが、おしゃれなカフェなどで見るようなカップの形を目指して、まなさんはカップが影で映ったときに、シルエットが角ばって見えるような四角いものを作ろうとイメージして成型。

その後、乾燥させて高台を削る。

乾かしすぎてしまうと削ることが難しくなる。

また乾きが不十分だと削りにくく、削っている最中に変形してしまう可能性も。

一気に乾かしてしまうと歪んでしまうこともあるため、様子を見ながらゆっくり乾かしていくことが必要。

茶の湯では最後に使われた道具をを拝見する時間のときに、お茶碗をひっくり返してみる場所が高台裏。

表よりも裏が作家の腕が分かる、隠れ正面と言われているほど大切な部分。

コーヒーカップを作る上でもこだわりのポイントである。

また取っ手をつけるタイミングもここ。

よくある“くにゃっ”とした取っ手はまなさんがイメージするものには合わない。

そのためシンプルに伸ばしてつけたという。

削りなどができれば再び乾燥させる。

この時には確実に乾燥させた状態にする。

続いて、素焼きし、絵付けをする。

赤膚焼の特徴である、奈良絵を絵付け師のまなさんの姉・ほさなさんが施す。

コーヒーカップを「どぶ掛け(どぶづけ)」をして釉薬に浸す。

釉薬は売っているものもあるけれど、まなさんが使用する釉薬は大塩家伝統のもの。

大塩家の釉薬はすべて父・正さんが調合したものだそうだ。

釉薬は長石という粘土質の原料と吉野杉の木灰、珪石っていうガラス成分が多く含まれる原料の3つを配合して作っている。

電気窯で焼成する。

色合いは焼き加減や釉薬のかけ具合によって少し変わる。

気泡は土と釉薬の相性、もしくは釉薬の厚みによってできるもの。

口元など釉薬をかけて薄くなる部分は、鉄分が入っている土の影響で赤い色になる。

「白い土に白い釉薬だとぼやーっとしてしまうけれど、赤い土だから薄くなった部分は角がキリッと見えるので、ポイントだと思うんです」。

釉薬が高温で溶けてガラス質のようになる。

高台まわりを見たときに、緋色が出ると焼き物屋さんで評価される。

釉薬の中に「アルミナ」と粘土の中の「鉄分」が反応して緋色が出る。

なぜそうなるのか詳しくは判明していないそうだから、緋色が出ないこともあるそう。

「陶芸はゴールが決まっている」と話すまなさん。

絵を描くことが好きで高校まで油絵や版画の勉強をしてきたが、絵画はゴールがあるようでなかった。

でも陶芸は本焼きして、窯出ししてできあがる姿がある。

窯詰して焼いている間はどうなるか分からない。

もしかしたら木っ端みじんに割れているかもしれない。

釉薬が変な色になる、どろどろになってしまう、そういうリスクもゼロではない。

でも完成までは、しっかり計算して気を配り、その中で絵画のように自分の創造性、作家性を入れていける。

そこに陶芸のおもしろさを感じたのだとか。

 

陶芸の魅力を知ってもらいたい

工芸って自然の中からできてくるもの。

そのため木とか紙とか強い漆でも、風化しやすい。

金属でさえ、錆びて最終的には土にかえる。

でも陶芸や焼き物は、本焼きまでいってしまうと2度と元の土の状態には戻らない。

一生その形のまま残る。

まなさんの曽祖父はたくさんの人から尊敬されていた窯元で孫であり、まなさんの父である正さんにこう伝えていたようだ。

「永久保存版のようなもの。自分の一生が終わっても、この焼き物の一生は一生続いていく。変なものを作ったら一生残ってしまう。だから変なものは作ってはいけないんだ」。

それを正さんから教わったとき、改めて自然への責任感を感じたのだとか。

だからこそ人の意見を聞きすぎず、自分がやっている意味を考えて、1つ1つの工程に全力投球でモノづくりをしている。

「『好きな人がいるけれど、その人のことを深く知らない。だからもっと知りたいです。』と言って、知りつつある途中の段階にような感じです」と陶芸のことを話しているとき、とにかく楽しそうに話すまなさん。

 

土物は吸水性があるため「目止め」と言って陶器の凹凸部分の穴を塞ぐ必要がある。

昔の人は当たり前のように、米のとぎ汁などに漬けて目止めをしていた。

わび茶で有名な茶人、千利休。

茶の湯のときに使われるのは磁器ではない。

それは磁器が磁器の吸水性が1%以下と決まっているため水を全く吸収しない。

一方陶器は吸水性があるため、陶器が変色していく。

それがお茶の楽しみであって、“侘び”だと提唱された。

器を手に持ったときに柔らかさや温かみを感じて、お茶の味もまろやかになる。

変色したものを「時代がついている」と言ったりするそう。

お客さんの中には、変色したものがほしいという人もいるんだとか。

手で触れているうちに艶が出てくる。

使うほどに色が馴染んでいく革製品のように“汚れ”ではなく、付加価値として大事に楽しんで使ってほしい。

取材担当からのコメント

中村 真奈美

手に取ったとき、また口に触れたときの肌感が心地いい。高台の楽しみ方や、「時代がついてくる」楽しみを伺って、陶器のおもしろさを知りました。取材時はとても目を輝かせて楽しそうに陶器のお話をしてくださるまなさん。その人から作られた器の魅力は人柄も映し出すんだと感じました。

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奈良県下市町赤膚焼 大塩まな

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