ひと編み、ひと針に想いが込もる、一生物の『日光下駄』
時は遡り、江戸時代のこと。
徳川初代将軍・徳川家康公を御祭神にお祀りする「日光東照宮」をはじめとする日光の社寺には、全国各地の大名が参拝に来訪しました。
当時、参拝時の正式な履き物は“草履”と決められていたため、参拝者たちは表門で「清めの草履」に履き替えることが必須。
しかし、神社境内は砂利ばかり。
冬場には雪が積もることも多く、草履では不便極まりない状況だったそうです。
そこで考案されたのが、下駄の上に草履をのせた「御免下駄」。
雪道でも歩きやすいように高さを出したこの商品は、参拝用の履き物として認められ、境内参入時に用いられるようになりました。
この格式ある「御免下駄」に実用性を持たせたものが、現在の「日光下駄」。
歴史あるこの商品は、職人たちの手により、時代を超えて代々受け継がれているのです。
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いにしえの格式を継承しながら時代に合わせて進化を遂げる「日光下駄」
下野手仕事会(日光下駄)・日光伝統工芸協議会会長を務める山本政史さんが、この世界に飛び込んだのは、1993年のこと。
さまざまな仕事を経て独立自営の道を模索していた時、担い手不足のため存続の危機となっていた「日光下駄」のことを知り、日光市が計画した後継者育成事業に参加。
日光下駄の職人・山岡和三郎さんに師事し、基礎を習得。
その後独立を果たした。
そして、山本さんのお弟子さんである中山さんも、2018年に公募された同市の後継者育成事業に参加して、伝統工芸士の道へ。
修行期間は終わったものの、「まだまだ学ぶことがある」と師匠・山本さんにいろいろ教わりながら、栃木県認定の伝統工芸士を目指す。
山本さんが作業を行うのは、自宅敷地内の工房。
1日の大半をここで過ごす。
日光下駄に用いる素材は、藁や麻ひも、竹皮など、すべて自然素材。
制作時に使う道具は、知り合いの職人から譲り受けたものや、自作の道具がほとんどだ。
「売っていればもちろん買うけど、絶対売ってないからね。日光下駄を作っていると、『こうゆう道具あったらいいな』って思う部分が出てくる。制作に必要なので、作るしかないんですよ」と、自作の鼻緒作りの道具を見せてくれた。
上から、鼻緒の藁を包む白い布、鼻緒の表布、太い針金で作った道具に、バネクランプ、缶で作った筒状の道具。
バネクランプ以外は自分で作ったり、職人仲間から譲り受けたものを改良したりしたものだ。
缶で作った小さな筒状のものは、長い針金のフックと共に、青い鼻緒用の布の中にある。
針金の専用器具の端に、白い布で包んだ藁を挟み、缶で広げた布の中に少しずつ収めていく。
パンツやスカートのゴム通しをイメージすると、この作業は理解しやすいかもしれない。
自然素材だからひとつひとつに個性がある。
全部が全部、扱いやすいというわけではない。
初めに「使えない」とよけた素材が、後に使えることもあるから、「こういう素材がいい」と一概に言い切れない。
手の感覚を信じて、今の作業に必要なものを選択する。
竹皮は、硫黄でいぶし、その後乾燥。
この工程で2日間ほどかかる。
手の調子によって、うまく編めないこともあるので、「何日で完成する」とは約束ができない。
手の調子がよくないときは、編むのは諦めて、ほかの作業を行う。
自然の恵みは、何一つ規格が無いから、決まり通りに進まない。
「手仕事って体が資本だね」と山本さんはしみじみ。
「毎日が挑戦だから、(飽きずに)続くんですよ」。
この飽くなき向上心が技術力を高めているのだな、と心を打たれる。
弟子の中山さんに、一番難しいと感じた部分はどこかと問うと、「作り始めたばかりの頃は“はなめし”に苦労しました」と教えてくれた。
「はなめし」とは、草履の編み始めの部分のこと。
「はなめし」部分を左右均等の幅で空けるのが難しく、苦心するそうだ。
ここに使うプラスチックの道具は、山本さんが生み出したもの。
あまりにも作業が大変なので、「解決策はないか」と模索していた際に、ふと目に止まったのがこの切れ目入りのプラスチックだったそうだ。
いつも “よりよく作る方法”を考えているからこそ閃ける、と言う。
草履は皮目の両端を折り、綺麗な面だけを表に出して編んでいく。
時々、知人に「ちょっと変になっていてもいいから、作ってよ」と言われることがあるそう。
しかし、「自分の技量に妥協をすることはできないから、“変なの”は作れない」と笑う。
自分の感覚で「これはだめだ」と思ったらやり直す。
「変」と思ったまま先に進めないし、進まないのが、山本さんのポリシーだ。
まっすぐに編み、最後は両サイドの紐をぐっと中央へ寄せる。
踵部分の丸みを作り、中央を重ね合わせ、小判形にまとめる。
「この最後の部分も大変です」と弟子の中山さん。
ここの出来で、草履のよさが決まる。
草履の両端に一体化している鼻緒が日光下駄の特徴で、一般的な下駄とは大きく異なる部分だ。
鼻緒の根元がサイドに付いているので締め付け感がなく、藁が入っているので足あたりがよい。
そのため、一般的な下駄と比べて足の痛みはほとんどない。
草履の裏側に残った竹皮は、包丁で切り落としてなるべく短く整える。
包丁を入れる力加減が重要で、弱いと滑って手を怪我するし、力を入れすぎると切ってはいけない部分まで切れてしまう。
こういった部分にも、職人の感覚は必要なのだ。
草履が完成したら、台木に合わせて縫い付ける。
台木は、T字型の下駄である「一枚歯」や、江戸時代に寺社参拝で履かれていた「御免」などさまざまな種類があるが、今回紹介するのは現代の生活スタイルに寄り添った「右近」。
これは、歩きづらかった既存の形を改良し、歩きやすさを追求した、山本さん考案の新型だ。
時代に合わせて使いやすくしていく。
そうして、人々に受け入れられ、使い続けてもらうことで、後世に残る「伝統」となる。
これが、山本さんの考える伝統のあり方であり、お弟子さんたちにも伝えたい哲学なのだと思う。
台木には斜めにドリルで穴を開けて、縫い付けの下準備。
台木と草履を合わせて、針で斜めに麻紐を通していく。
最後に鼻緒の中心部分を作業。
台木にあらかじめ開けておいた穴に合わせて、草履にキリで穴を作る。
下の台木の穴の位置が見えないのに、同じ部分に穴を作るのは至難の業だ。
日光下駄は、台木に草履を縫い付けた、唯一無二な履き物。
履くたびに負荷がかかることで、台木と草履が馴染み、履けば履くほど足にしっくりきます。
藁が自分の足の形に合っていくのも「オンリーワンの履き物」という感じがして、愛着がわくはずです。
ちょっとそこまでの距離でも気軽に履けて、いつも一緒にいられるのもすてき。
給水発散・殺菌効果があり、「夏は涼しく、冬は暖かい」という部分も魅力的です。
また、草履と台木は撚った麻で編まれているだけなので、台木や鼻緒が傷んだ場合は新しいものにすげ替えれば、一生履き続けられるという利点も。
サステナブルなところにも好感が持てます。
ジーンズとTシャツに、足元は日光下駄。小粋なファッションに身を包んでみてはいかがでしょうか。
取材担当からのコメント
山本さんと、中山さんが日光下駄に込める愛情は、手仕事のていねいさに現れていて、皮目ひとつひとつにまで心を込めている様子がひしひしと伝わりました。この商品は、まさに一生物です。お祝いの席で使える商品を、あえて日常に取り入れて、足元からクラスアップしてみてはいかがでしょうか。
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栃木県日光市日光下駄・山本
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