心に届く香り。生み出された墨の新たな価値
水につけて、すずりで磨(す)り、筆に染み込ませて文字を書く――。
墨といえばこうしたイメージを持っている人が大半だと思います。
そんな墨が、美しい螺鈿をまとったサシェ(香り袋)になると聞くと、少し興味がわきませんか?
墨の歴史は1500年。
悠久のときを経ても、文字が紙に残り続けるほど耐久性が高く、歴史の有り様を今に伝える静かな語り部として、役割を果たしてくれています。
奈良の墨は、全国で9割以上のシェアを誇る伝統工芸品。
代々墨職人の家系であった「錦光園」が独自の解釈を加えて生み出した『香り墨Asuka』は、墨と令和の暮らしをつなげる逸品です。
日本パッケージデザイン大賞でも受賞した、珠玉の名作をぜひ手に入れてください。
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墨の文化を象徴する、細部にこだわった香り墨
時代と主に希少価値が高まっている固形墨。
150年以上もの歴史を誇る錦光園は、墨の魅力を未来へとつなぐ、様々な活動を行っています。
『香り墨Asuka』の開発もそのうちの1つ。
「墨には、美術工芸品としての要素もあるんです」と七代目の長野さん。
私たちが知っている墨は、磨って紙に書くという用途ですが、『香り墨Asuka』は、「書かなくても良い墨」をコンセプトにした、視覚的な美しさや、墨そのものの香りの奥深さを堪能できる商品です。
開発秘話と製品へのこだわりは、墨の匠ならではのものでした。
まずは外観。
「パッケージを含めた全てが工芸品であるように」と願いを込めて、文化的なデザインが息づいた箱と本体に。
パッケージには、異国の地から奈良にもたらされた螺鈿(らでん)を再現。
器や楽器といった宝物に施されていた貝殻が持つ柔らかな虹色の輝きが、『香り墨Asuka』のパッケージに可愛らしさと気品を漂わせていて、大人の所有欲を満たしてくれます。
本体は、国宝「伎楽面(ぎがくめん)」が由来。
伎楽面は世界最古の舞踏仮面で、墨と同じ時期に奈良へと伝わったとされています。
奈良を代表する工芸士・古楽面作りの専門家がこの伎楽面の形を再現。
“厄除け”、“身体健全”、“女性の美”といった縁起があり、その精巧なつくりには目を奪われました。
香りは、心を落ち着かせる墨の香りを高めた特別製。
派手というよりも、馥郁たる懐かしい匂が染み渡ってきます。
墨の製造期間は成分上、季節で決まっていて、10月~5月ごろなのだそう。
これだけでも、希少なものだと理解できます。
「錦光園」は、時間をかけた伝統的な固形墨の製法を守り、高品質な墨を製造しています。
<1>採煙(さいえん)
なたね油やごま油を“かわらげ”という土器に入れ、灯芯に火を灯します。
火加減、油の量も匠の技が光ります。
かわらげの蓋にたまった煤(すす)を採取します。
<2>膠(にかわ)の溶解
膠を4時間、70℃を保ってかき混ぜながら湯煎し、溶液を作ります。
<3>原料の撹拌
煤と膠の溶液と香料を撹拌し、ローラーで十分に練り合わせたあと、手と足で丁寧に揉み込み、生墨を作ります。
練りの工程は墨の品質を決める最も重要な作業なのだそうです。
<4>木型・型入れ
※通常の製造工程のもの。
梨の木で作られた木型に、練り終わった生墨を計量して入れます。
<5>乾燥
通常の製造工程のもの。
新聞紙と新聞紙の間にはさんで、湿った木灰に1日埋めます。
翌日以降は、木灰を、少しずつ乾燥したものに換えて、1週間~5週間程度かけ、少しずつ水分を抜いていきます。
時間をかけなければ、墨が割れてしまうのです。
これは通常の固形墨の場合で、『香り墨Asuka』は全く別の方法で乾燥させているとのこと。
精巧なお面を再現しているからこそ、その繊細さは段違い。
7代目は乾燥作業の試行錯誤にとても苦慮したのだとか。
「試作では2000個は割れましたね」。
そのため、開発にはなんと半年かかったそうです。
<6>磨き
不純物を水洗いして取り除いた後、釉薬を塗り、木炭で炙ったのち、貝殻で磨きます。
<7>彩色
さまざまな顔料を用いて、墨の独特な立体感を生み出していきます。
『香り墨Asuka』は、サシェ(香り袋)として普段使いができる商品。
見た目も美しく、高級感があります。
そのため、鞄の中やデスクに入れて、使用される方が多いのだそうです。
「海外の方への贈答品としても喜ばれていますね」と七代目は教えてくださいました。
取材担当からのコメント
墨の歴史やその魅力に、改めて気付かせていただいた取材でした。
所有欲をそそられる螺鈿のパッケージは、見た目はもちろん墨の色移りも防いでくれるため、機能面でも優れています。
日本パッケージデザイン大賞で銀賞に輝いたことも、納得の商品でした。
書道をしていたり、授業で墨を触ったことがある方も多いはず。
今を生きる現代人だからこそ、必要な商品だと思いました。
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奈良県奈良市製墨「錦光園」
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